東へ・・・U
ミーラズポートを出発し、休憩を2回挿みながら5時間超、みっちり歩いた。
太陽は月に『舞台』を譲り西の空から降りていった。
「今日はここまでにしましょう」
ガイド、リュア・ティークは言った。
「え?でも・・・」
言いかけるフィーラをリュアが制す。
「確かに急がなければいけない事は私もよくわかっています。でも、自分を大切にしてください。
・・・私も、多分彼も同じ気持ち・・・一刻も早く目指す土地に着きたいですよ。でも、今休んでおかないで、一番大事な時に身体が動かなかったら仕方がないと思いますよ」
リュアの言う事は正論である。フィーラはとにかく母を助けたいという気持ちだけで東へ向かっている。
既に消耗し、足も張っていたが気力だけで歩いてきた。
リュアも正直な所、ペースが速すぎるとは思っていたが、彼らがどこまで本気かを視(み)てみたかった。
それも今日一日で判った。自分と同じ、とにかく早く東へ着きたい意思を感じ取った。
初日の最終到達地点は町だった。街灯が灯り、冷えて澄んだ空気の影響のせいか、光が強く感じる。
「何処か宿ないかな?ここまで来て野宿は勘弁」
イクスケリオンが言った。
宿を探す三人。すぐに見つかり、チェックインも出来た。昨日の悪魔の宣戦布告のせいで客足が遠退いたそうだ。
ベットの用意をする中年の女性(女将と思われる)は「商売上がったりだ」と笑う。
一部屋に三人は居た。イクスケリオンは流石に女性二人を考慮して「部屋二つにしよう」と言ったが、フィーラがその分の代金を払うと言って聞かなかった。
ベットが二つしかない。
「フィーラさん、先にお風呂どうぞ」
「いいんですか?じゃあ・・・」
フィーラとリュアの遣り取りを聞き、
―――きたな・・・
と、イクスケリオンは思った。
彼はとことん初心(うぶ)であった。女性の肌をまともに直視出来ない男だった。すでに風呂から上がったフィーラの姿を妄想していた。彼を擁護する為に書くが、脳が勝手に妄想していた。
嗚呼・・・悲しい男の性・・・
そんな事を考えているうちにフィーラは部屋を出ていた。
旅の案内係をしてきたリュアはイクスケリオンの心には気付くわけも無く、装備を外し、ベットに仰向けに倒れていた。
「本当に助かります」
「?」
リュアは頭を起こしただけの体勢をとる。
「あなたのような方が案内してくれて・・・」
「気にしないでください」
笑みを浮かべ首を振り、続ける。
「ただ何もしないで死ぬのは嫌ですからね」
「家族の方は・・・?」
「笑顔で送り出してくれました」
「・・・そうですか」
これ以上訊くのはやめよう。
リュアだって辛いはず。自分だってそうだ。出発するとき母親に泣き付かれ、父親は今まで見せた事もないような真剣な表情で
「男なら愛する者を命懸けで護ってこい」と後押しした。母親は終いには父親に止められていた。その時の二人の姿が忘れられない。
涙目になる。
「あー、そうだ、私も訊きたい事が」
リュアは腹筋の力で上半身を起こす。イクスケリオンは丁度涙を拭き終わった直後だった。
「彼女とは、やっぱり、アレですか?」
ニヤニヤするリュア。
「だと、思って、います」
似たように区切って返す。
幼馴染ということだけで長年一緒に居る時間が長く、いつしか周りの人達に「あの二人はデキてる」と思われていると聞いた事がある。フィーラもそうゆう認識をしていると思っている。
そんな噂が流れているようでも自分に会ってくれて、話をしたり、笑い合ったり、時には喧嘩をして。もちろんフィーラの事が好きなのは確かだが、
言葉で伝えた事は(小っ恥ずかしくて)無い。彼女もそんなとこだろう。
お互いの本心を伝えられず、といったところである。
話を変えよう―――イクスケリオンは思った。
「今回の旅・・・どう思います?」
「どう思うって?」
「フィーラから聞いてると思いますけど旧文明に関する土地と、天使が話したとか言う話・・・何か繋がりがあるのかな?と・・・」
「さあねえ・・・。もしかして、天使は旧文明の人間だったりして」
「え?」
「適当に言ってみただけ。彼らだったら今の人間が知らない技術力や科学力を知っているかも・・・って事。もしそうなら、凄い兵器とか持ってそうじゃない?」
「・・・何となく、ありえそう、ですね」
「で、あの首飾りが『鍵』って話、ありえそうじゃないですか?(笑)」
(・・・・・・)
リュアは目をキラキラさせながらイクスケリオンに自身の考えを語った。イクスケリオンはリュアとは違う考えを持っていた。
故にリュアの考えは前向き過ぎるような気がしてならない。
「でも、貴女の言った通りだとしたら、何でしっかり説明しないのかな・・・?」
「それは・・・あっと驚く超兵器で、説明が難しいとか・・・」
(・・・・・・)
リュアの考えは受け入れられそうにない。
「あなたは?」
リュアが訊きかえした。
「俺は・・・」
イクスケリオンは自分の考えを言葉に出来ず黙ってしまった。
しばしの沈黙の後、リュアがフフッと笑い、上半身を倒した。
続いてリュアが風呂に行き、部屋にはフィーラとイクスケリオンのみ。
鏡に向かい髪の手入れをするフィーラの後ろ姿をイクスケリオンは見ていた。好きな人はリュアの説得、風呂に入ったせいもあるのか、少し冷静さを取り戻したようだ。
逸る気持ち・・・
それが自分とフィーラでは大きさが違う。彼女のように旧文明の歴史に興味があったらその差は縮まっていただろう。
フィーラの心境も少し変わっていた。自分一人じゃない。みんなが恐れ、滅びの道から抗おうとしている。母にイクスケリオン、リュア。そして天使が導こうとしてくれている。
イクスケリオンが見ている事に気付き、フィーラは鏡に映る彼に笑う。
「何?」
言葉でも彼に問いかけた。
「いや、何も・・・」
言い、視線を逸らすイクスケリオン。少し赤くなる。ばつが悪くなり、言う。
「ちょっと、首飾り貸してよ」
「うん」
フィーラから首飾りを受け取る。彼女から石鹸の匂いがする。
首飾りについた二本の円柱形の金属を捻ってみる。相変わらず開かない。
「しかし、何なんだろうね、これ」
「誰かの持ち物らしいけど」
「でも天使は引き取ろうとはしなかったんでしょ?」
「うん・・・」
「何をさせたいんだろ・・・?」
フィーラは化粧台を離れ、イクスケリオンの方を向く格好でベットに寝転んだ。イクスケリオンは目だけで彼女を追った。宿が用意した寝間着に着替えたフィーラ・・・
そうゆう姿をした女性をこれまで見た事ない彼はいよいよ目のやり場に困ってきた。
―――何でこの宿屋は風呂が一つしかないんだ?
早く風呂に逃げたい。
フィーラは目を閉じ、大きく深呼吸した。
「結構歩いたね・・・」
「あ、ああ・・・」
イクスケリオンはとにかく首飾りに意識を集中する。余計な事に脳が支配されまいと努力する。
「あ、そうだ」
言い、フィーラは立ち上がり、荷物を開ける。本を手に取り振り返る。
「私ね、旅の日記を付けようと思うんだ」
「いいんじゃないの?」
「・・・読み手が居れば、いいけどね・・・」
「・・・・・・」
白紙のみの本をパラパラと捲る。もうすぐ旅の初日について書き込む。旅の終わりまで書ければいいな、と思う。
「お母さんへのお土産?」
フィーラと彼女の母との約束・・・『生きて戻る』という約束を思い出し、イクスケリオンは訊く。
「そう・・・だね、まずはお母さんに読んでもらえたらいいな・・・」
その後は・・・
静かになった事に気付き、イクスケリオンは視線を上げる。するとフィーラは驚き、視線を逸らし、頬を赤らめる。
(な・・・何だよ・・・?)
イクスケリオンも視線を逸らし、頬を赤くした。
―――早く風呂に行きたい
寝間着には着替えず、着てきた黒の着衣を再び纏い、剣の手入れをするリュア。上着に隠れていた灰色の余裕のある半袖から伸びた腕とブーツに包まれていた素足が姿を現し、寒そうな印象を与えるが、
フィーラは自分より胸が大きくていいなあと羨望の視線を向けてた。日記は書き途中で端の方にポニーテールを結ったリュアの横顔を無意識のうちに描いていた。
リュアは剣に視線を向けたまま言う。
「顔に何かついてますか?(笑)」
「い、いえ、なんか、見蕩れちゃって・・・」
手を振ってまで否定するフィーラにリュアは笑う。
「あなたは何してるの?」
「旅の日記をつけようと」
「お母さんへの唯一のお土産ってワケ?」
「そんなところです・・・」
書き途中の日記に目を戻す。無事に旅の記録を残し、母に見せたい。そしてこれからも続くであろう生まれてくる命に昔話として寝る前に話せられたら・・・
朝が来れば残り五日・・・
東の地に何があるのか・・・?
リュアは剣の手入れを終え、言う。
「そっち行ってもいいですか?」
「はい」
フィーラが答えると、リュアは彼女の隣まで椅子を持って来て、座る。
「これ、私ですか?」
リュアはフィーラの日記に描かれた人物を指差して言った。
「あ、似てないですか?」
「いやー、美人過ぎて誰かなー?と(笑)」
笑うリュア。
「・・・本当にありがとうございます」
頭を下げながらのフィーラの言葉にリュアは笑うのを止め、真顔になる。
「・・・いいんですよ。さっき彼にも言われました。・・・何もしないで自分はおろか、身近な人達を失いたくないですからね。
あなたと会っていなかったら、今頃絶望してたと思います」
(・・・・・・)
「フィーラさんが私をどう思っているか分からないですけど、そんなに強い人間じゃないんですよ。剣持って格好つけてるだけ。
守護団の人達もそんなのばっかり。・・・昨日、誰一人悪魔を倒せなかったなんて公には出来ませんよ(笑)」
そう言って笑うリュアとは裏腹に、フィーラは二年前のクーデターの事を思い出した。人質になった見ず知らずの自分を真っ先に助けにきたリュア。
降り続く雨の中、首謀者の男を斬るも自身も大怪我を負い、フィーラはろくに使った事もない治療魔法を唱え続けた。この勇気ある女性を絶対に死なせまいという想いで・・・
もし、自分が彼女の立場だったら・・・見てみぬふりをして逃げていただろう。
昔を思い出しているとリュアが口を開く。
「私もあなたに言っておかなければいけない事があります」
「・・・?」
首をかしげるフィーラ。
「実は歩くペース、上げてます。気付きました?」
・・・え?
「かなり距離を短縮するため、ちょっと険しい道も使ったんですけど・・・。ここ、リナク市じゃなくて、更に東のメプリナムの町です」
嘘。
フィーラは地図を取り、確認する。リナク市はテトラミーラ国首都フリーエリヒトと東の国境の中間より東寄りだが、メプリナムの町となれば予定の1.25倍の距離歩いた事になる。
このペースなら明日の夕方頃、隣国クリストルの国境を越えられそうだ。
「このペースを維持すれば三日後、『期限』に間に合うようになると思います。多少、困難が付き纏うと思いますが・・・」
やっぱりこの人を選んでよかった。
「どんな結末が待っていても私はあなたを責めません。そして、あなたを最後まで全力で守ってみせます。神に誓っても約束します」
リュアは右手を軽く上げ宣言した。見蕩れるフィーラ。
―――もう惚れそうです
いい加減で人任せ・・・それがこういう形で現れた。見方によっては「絶対『期限』に間に合わせてあげたい」というリュアの配慮だった。
だから彼女は極力目立つ景色を見せず、自分は黙って前を歩き、急いだ。そうすれば疲れていようがついてくる。
フィーラはそんな事も読めず、目をキラキラさせてリュアを見てた。
「あ、あの・・・」
「はい?」
問い返すリュアに顔を近づけフィーラは言う。
「今夜、一緒に寝てもらえませんか?」
―――へ?
「私、そうゆう趣味ないですけど・・・」
リュアはフィーラの身体を見る。
(そう言えば、成人した女性の身体って母さん以外知らないなー)
リュアは思った。別に裸を見たいとかそうゆうのじゃなくて、他の女性の温もりを知らないという意味で・・・
―――ちょ、ちょっとくらい触ったりしてもいいよね?
誰に問いかけているのか・・・?
部屋の扉が開き、イクスケリオンが入ってくる。女二人が向かい合い、これからナニかをするような光景に驚く。
―――おいおい・・・
どうしたらいいかわからず部屋の隅で小さくなる。
そう思うならお前は出て行け。
同刻、フリーエリヒト市。
夕食を済ませ、ユリエヌは居間で一人、煙草をふかしていた。
(あの子は何処まで行ったかな・・・?)
目を閉じる。
リュアは家族が残る理由を聞かなかった。何となく解っていると思った。
ここには夫の骨が眠っている。
王城に居るエクルスだけ残して逃げる事は出来ない。
一人の犠牲よりも一人の生存を・・・
ユリエヌ自身、この地で犬死にしてもいいと思っていた。夫に先立たれ、あらゆる事が手につかなくなった。
人の生活を潤す為に研究されている筈の魔法も結局は軍事転用を優先される。
自分の作る武具はどうだ?人を守る為?その為に人が犠牲になる・・・
それ以前からも心の迷いがあったが夫の死が猶のこと心に影響を与えた。
もう人殺しの道具は嫌。
大口の取引先はおろか、国家との契約も一方的に解約させた。
その後、旅に出るというリュアに剣を作って持たせた。何故、どんな想いで作ったかよく覚えてない。
どうか、剣を抜くような事が無いように・・・
居間に来たルベクトはユリエヌに言う。
「あの・・・ユリエヌさん・・・」
「何?」
目を開き、返す。
「お客さんなんですが・・・その・・・」
ルベクトは顔を近づけ、小声で言う。
「城からの使いと名乗る人達が五人、訪ねてきました」
「・・・・・・」
予感はしてた。無視し続けるわけにはいかないだろう。煙草をくわえ、立ち上がり、壁に掛けられている剣を取る。
「ユリエヌさん!?」
驚くルベクトに、ユリエヌは、
「大丈夫」
と、言い、ウインクをした。
ルベクトはガルトを呼びに行く。
玄関脇の下駄箱に剣を置き、直ぐに手に取れるようにしておく。こういう念の入れ様は親子そっくりだ。
(覚悟を決めますか・・・)
ドアノブを掴む手に力が入る。
カチャという音の後、外界と繋がる。
(・・・・・・)
門灯に照らされる人物が五人、その中の派手な装飾が施された上着を着た男は見覚えがある。あとはその護衛の兵士のようだ。
「今日はもう店仕舞いです」
くわえ煙草で言った。ドアを閉めようとする。
見覚えのある男が腕を滑り込ませ、閉めさせなかった。
「二十年前、初めて訪ねた時もこんな対応をしましたねえ、ユリエヌ・ティーク先生」
「あら、よく見たらゼノス秘書官、髪が一段と減ってるから気付きませんでした」
言葉で嘲笑し、更に顔に煙草の煙をおもいっきり吹きかける。額が禿げ上がった中年の男は口を押さえ咳き込む。
護衛達の表情が強張る。それでも剣を抜かない。所詮命令が無ければ動かないのか。
目的はわかっていた。その上での虐げ・・・
禿げの中年は声高に主張する。背は低いが。
「今は!・・・国防大臣だよ。あなたより身分は遥か上だ」
―――ヘヘヘっ
笑ったのはユリエヌだった。昔を思い出す。
「二十年前、その低身分の庶民に土下座してたのは何処の誰でしたっけ?」
「ぐっ・・・」
禿げは嫌な過去を蒸し返され、その頭を紅潮させる。
(落ち着けッ・・・)
手を握り、怒りを抑えようとする。
「で、何の用でしょうか?国防大臣様」
力と権力に溺れた人間の心を弄ぶのは気持ちいい。ユリエヌは口元で笑う。
何とか動揺を押さえ、ゼノスは本題に入るべく口を開く。
「・・・・・・あなたも聞きましたか?悪魔の声を・・・」
「ええ、それで?」
「朝が来れば残り五日・・・政府としては最後まで抗戦する。その為には優れた兵力と武具が必要不可欠だ。
政府は名のある兵士、魔法使いの召集と、武具の調達を急いでいる。だから、今は農具と鉄器の鍛冶屋に成り下がったあなたにも力添えをしてもらわなければいけない。
・・・今でも、腕は健在でしょう?」
ユリエヌは鼻で笑う。
・・・ハゲの話は続く。ユリエヌは目を閉じ、開く。ガルトはすぐ近くで話を聞いていた。
「・・・強行はしたくないです。黙って同行してもらいます」
「おい!そんな話こっちは受け入れないぞ!」
ガルトがハゲ大臣の前に飛び出す。手に剣を持っていた。
「やめなさい」
ユリエヌはガルトの腕を掴む。ルベクトはどうしたらいいかわからず、ただ見ている。
「今度は母さんを利用して殺す気か!?ああッ!?何が『国の為』だ!」
ガルトの物凄い剣幕を目の当たりにし、兵士達がゼノスの前に出る。本当に斬りかかりそうだ。
「母さん、こんなハゲの言う事なんか構うな!」
とうとう登場人物にもハゲと言われたが、ゼノスはビビって何も言えない。これ以上口を開くと命に関わる・・・そんな気持ちであった。
「とっとと帰れッ!!」
非常時の国からの命に背くのは反逆罪になるのか・・・?
(なるよね・・・)
ガルトを抑えながらユリエヌは思う。
今まで作ってきた武具達・・・戦争といった人殺しが目的で作られた。だけど今は・・・世界は悪魔という脅威に脅えている。
(・・・・・・)
代々親から受け継がれてきた鍛冶の技は今、真価を問われる時ではないのか・・・?
人殺しではなく世界を救う力として。
守護団の面々や目の前のチビハゲ大臣が召集している兵(つわもの)も使ってくれるかも・・・。尤も、彼等なら命を任せられる武器を持っていると思う。
でも・・・でも・・・世界、人類の為なら・・・
「・・・私、行くわ」
―――はあ!?
ガルトはユリエヌの顔を見る。
「行く必要なんかないだろ!?」
「必要よ。世界の終わりが迫っている今、皆が一つにならなきゃ乗り越えられない。
それにエクルスが心配だもの・・・あの子一人だけであんな欲の塊の・・・伏魔殿みたいな所で終わりを迎えてもらいたくない・・・」
(あ、アニキ・・・)
母と鍛冶修行の居候の少年、時折旅から帰ってくる妹に囲まれているガルトは兄の境遇を忘れていた。年に数回しか帰ってこれない兄・・・
「・・・俺も、行くよ」
「いえ、あなたは残りなさい、リュアが帰ってくるんだから・・・誰も『いなかった』ら悲しむでしょう・・・」
「・・・・・・」
「あと、これ・・・」
言い、ポケットから取り出した鍵をガルトに差し出す。
「・・・これは?」
「地下の奥の扉の鍵。もしもの時は使いなさい。海岸まで通じているから、適当な船を使って・・・この大陸から脱出しなさい」
(・・・・・・)
世界中が危機だというのに何処に行けと?それに、家族を見捨てて逃げれるかよ・・・
ユリエヌはルベクトに目を向け、言う。
「ルベクト、あなたは明日の朝この町を出なさい。ご家族、心配してるでしょうから」
ルベクトは少し考え、口を開く。
「いえ、残ります。・・・僕だけ逃げるような事はしたくないです。僅かな可能性に賭けたリュアさんにも悪いし・・・
なにより、皆さん無事に今回の事態を乗り越えた後も残りますよ。教えてもらいたい事はまだまだ沢山ありますから・・・」
「ふふっ・・・嬉しい事言ってくれるわね」
ユリエヌはゼノスに向き直り、言う。
「もう一度、御国の為に心身を捧げましょうかね。でも、その前に・・・」
ユリエヌは条件を提示した。
朝昼晩三回、エクルスに会わせろ。
最低七時間睡眠を摂らせろ。
もしもの時は身内を最優先で守り、城へと避難、誘導しろ。
雑貨屋エルトワースの煙草を常備しておけ。
「こんなところかな・・・?煙草代は私が出すからご心配なく(笑)・・・それとも呑めない?」
「・・・いや、約束、しましょう・・・」
ゼノスは言った。また無理難題を要求するかと思いきや・・・。何故かホッとした。
訪問者達を外に待たせ、ユリエヌは出掛ける用意をする。
「本当に行くのかよ・・・」
「嘘言って撒けるような相手じゃないでしょ」
「そりゃそうだけど、何かあったらどうすんだよ・・・親父みたいな事になったら・・・」
「それは無いわよ。勝負は五日、終われば開放するだろうし、そんな短期間で死ぬ程弱くないし。それに私には手を出せない」
「何でそう言い切れる?」
「『人質』がいるから」
「・・・?」
「エクルスは絶えず王の近くにいるのよ。もし私に万が一の事が起きて、あの子の耳に入れば・・・フフフッ」
・・・・・・
愛用の工具と煙草、金、剣を持って玄関を出るユリエヌ。続いてガルト、ルベクトが出てきた。
「窯と大きい設備はあるんでしょうね?」
「もちろん」
ユリエヌとハゲ大臣のやりとり。
大臣に不信の視線を投げるガルト。ルベクトはユリエヌの背中を見てた。今でも国に強制とはいえ依頼される鍛冶屋・・・。
この人の下で鍛冶の修行が出来て良かった。
「それじゃ・・・留守、頼むわね」
「・・・・・・」
返事をしないガルトの頬にユリエヌはキスをする。
「ルベクト、貴方も」
ルベクトも頬にキスをされ赤くなる。
「・・・はい、お気をつけて・・・」