Interlude…recurring recurrence ...256
風は空を飛ぶ男の横を通り過ぎていった。
夜、星空の下。
まだ完全に我が物にしてはいないが、自分の求めていた力、魔法を手に入れた悪魔は再びアークエイトを訪ねようとしていた。
傘下に下るか、いずれ殺されるか・・・どちらかを選ばせる為に。
ビュージェエイファは復活した今も過去の忌々しい天使の事を引きずっていた。
何故天使が出来て、悪魔の俺が出来ない・・・
消耗戦の果てに、たった一つの魔法のせいで敗れ去った。
納得出来ない。
しかし、その異分子は既に消えかけている。
人間達のお陰で自身もその力を取り込み、着々を支配下に置きつつある。
魔界、いや、この世の頂点に立つ日が来る・・・
アークエイトの気配が強くなる。
当のアークエイトは丘の上の石に腰を掛け、ぼんやりと遠くを見ていた。
降り立ったビュージェエイファは彼女の後姿を見る。
紅いワンピースに包まれた華奢な身体、たまに風に揺られる紅い髪・・・
「何か用か?」
後ろも見ずにアークエイトは言った。
「最後の勧告に来た」
答え、反応を待つ。
アークエイトは立ち上がり、振り返る。
「何度来ても答えは同じだ。・・・そんなに私と戦う事が怖いか?」
またまた同じ問い掛けをされ、ビュージェエイファは胸糞悪い。全くもって図星。
「・・・答えたくなければ、答えなくていい」
言い、アークエイトは腕を組む。
「・・・・・・」
じゃあ、殺す。
ビュージェエイファはこの台詞を口から出し、今すぐここで戦う事、即ち、死を覚悟する勇気が無かった。
もう少し、七日後、切り札とも言える魔法を完全にコントロール出来るまでは・・・
でも、勝てるだろうか・・・?
相手、目の前の真紅の悪魔は不老不死。それでも勝てるのか・・・?
過去、悪魔の始祖達に戦いをふっかけた者は居ない。自分の死後は知らないが、生前は聞いた事が無い。
ビュージェエイファはどうしたらいいか判らなくなっていた。このまますごすごと帰るのも気分が悪い。
だからといって「傘下に下ってください、お願いします」という態度も嫌。
このままアークエイトがどうでるか待つしかなかった。
(・・・)
アークエイトは蘇った悪魔の部下の気配を遠くに感じていた。
何か起きたら飛び出し、命を懸けて護るといったところか・・・。アークエイトは思った。
彼等も自分達から仕掛けて来ないところから、やはり勝算が無い事を理解している。
(命を懸ける・・・か)
彼を思い出す。勝てないと理解してても、死に限りなく近付いても、最後まで『羅針盤』に近付こうと、阻止する自分に戦いを挑んできた。
彼にあってビュージェエイファに無いもの・・・死に対する覚悟、恐怖・・・
死ねない自分には死ぬという事がどういう事かわからない。そうゆう意味で彼の心に非常に興味が沸き、恐怖を感じた。一体何が彼をそこまで突き動かしたのか・・・
(・・・・・・)
アークエイトは組んだ腕を崩し、言う。
「付いて来い、私もお前に言いたい事がある」
「?」
アークエイトは飛び出し、丘の向こう側へ進路をとる。
(!?)
仕方なくビュージェエイファは追い駆ける。言いたい事?一見罠のような気もするが、従うしかないように思えたからだ。
部下、レイスク・ブラウヴェルトが予想外の事態に口を開く。
「おい!飛び出したぞ!?」
「追うぞ」
すぐさまデハル・ターブレイは飛び、加速する。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
イルクシア・フォルフラムも慌てて追い駆ける。
丘を抜け、低い渓谷に入る。
大地はすっかり黒に染まり、星が見えなければ完全なる闇の世界である。
そんな世界を飛んでいく二つの高密度の魔力を有する生物・・・
アークエイトはチラリと後ろを見、必死についてくる悪魔の姿を確認する。
翼の推進力に魔力を上乗せして、精一杯の速度といったところか・・・
やはり空気抵抗を考えると翼が余計であると言える。
ビュージェエイファは必死で飛んで羽無し悪魔に食いついていた。でも目の前のヤツはこれでも本気じゃないのだろう・・・。あくまで少し速い速度。いかにも「まだまだスピード上げれます」という様子。
―――気にくわねえ
アークエイトは高度を変えたり、身体を傾けたり、背面飛行をしたりする。ビュージェエイファが見た事も無い機動をとってみせる。瞬間的に真紅のワンピースの中が見える事が何度か。
ロール、バレルロール、ダッチロール・・・所謂、現実で空戦機動と言われるものだがアークエイトはそんな名称があるとは思ってもいない。彼女が長年空を飛び、色々考えて生み出した機動・・・
機動の詳細はさておき。
楽しそうに飛ぶ悪魔と対して嫉妬の炎を燃やす悪魔の馴れ合わない編隊飛行は続く。
時々、アークエイトはビュージェエイファの後方について煽るように接近したり、消えたと思ったら、後方から高速で追い抜いたりする。
ただただアークエイトの楽しみに付き合わされているだけだが、どうしようもなかった。話の事が気になる。ここは従うしかない・・・
後方にいる部下の気配が小さくなる。ついて来れなくなっている。
(アークエイト、羽無し・・・)
俺を殺した天使、レシュラントも魔力だけで飛行可能なヤツだったな・・・。
羽の無い悪魔はヤバイ。魔界ではよく謂われていた。始祖に近い血族とかそんな理由だったか・・・
しかしレシュラントは天使で白い羽を持っていた。
羽を使わずに飛ぶ事にどんな意味があるのか・・・
昔を思い出しながら彼は飛び続けていた。アークエイトの事も頭から消えていた。
距離にして200キロは飛んだ。アークエイトの下を指差すジェスチャーにより、編隊飛行は終了となった。
「疲れたか?」
「うるせえ」
アークエイトの皮肉と取れる言葉に返す。こっちが言いたい。常時魔力を放出していたクセに何で消耗してねえんだよ・・・
「言いたい事は何だ?」
戦わないなら早く離れたい。アークエイトに促す。
「お前・・・人間界を攻撃するのは止めろ」
「何故だ?」
「一応同族であるお前を想って言っている」
「けっ」
本当に胸糞悪い。止めろ?お前に言われるまでもない。止めるのならとっくに止めてる。
「その代わり、この魔界で神でも気取って治めてくれ。お互い干渉しない・・・これでどうだ?」
「・・・俺はな、お前が嫌いなんだよ。どちらかが消えてなくなるくらい」
ビュージェエイファはアークエイトに顔を近付け、睨みつける。
「お前と同じ世界で生きていると思うとむかつくんだよ。お前の絶対的な存在が」
「・・・・・・」
「だから、俺は人間界を新たな魔界に変え、確実なる勝利を確信した時、再びお前の前に
「黙れ」
突然のアークエイトの声にビュージェエイファは捲くし立てるのを止める。
アークエイトは右を向く。
「何だ?頭にきたか?」
「誰か見てる」
虚空の先・・・何か存在を感じる。アークエイトは目の前の悪魔よりもそちらに脅威を感じた。
何かはわからないが。ただ、この世のモノとは思えない存在感。
彼・・・?いや、違う・・・数も多い。
「何が見えるってんだ?」
ビュージェエイファは説教まがいの己の言葉を中断された事にいらつく。
「何も感じないのか?」
ビュージェエイファの部下がやってきた。彼等は自分達の親方が無事で安心するが、様子がおかしい事に直ぐに気付く。
「どうしたのかな?」
イルクシアはデハルに訊いた。
「わからん」
彼等もアークエイトの視線の先が気になる。
何を見てるんだ?
「行くぞ」
ビュージェエイファは部下達に言った。一体俺は何しに来たんだ?自分が馬鹿馬鹿しく思える。
「私の勧告は聞き入れてくれたか?」
皮肉も込めて、アークエイトは言った。
「俺の行動は間違ってない、これからもな」
お前の話はもういい。お前に対する行動は間違えていたようだ。ビュージェエイファは思った。
「じゃあな・・・覚悟しておけ。いつまでも悪魔の頂点に君臨していられると思うな」
捨て台詞を吐いたビュージェエイファが飛ぶ出すと、部下の悪魔達もアークエイトに視線を向けるだけで、特に何も言わず、闇の中へ飛んでいく。
女は舌を出し、顰め面をして去って行った。
もう不思議な気配は消えていた。
残されたアークエイトは溜息をする。
「お前の真っ直ぐなところは嫌いじゃないが・・・今回も壁は高いみたい・・・」
独り言。
アークエイトも再び飛び出す。ビュージェエイファ達とは反対方向へ。
かくして、事態は変化もなく、人間界の危機が免れない事実は変わらない。ただビュージェエイファを怒らせる結果に終わったが、
アークエイトには考えがあって彼に予想外の提案をした。
自分達、悪魔の復活の理由が定かでない今、下手に行動を起こさないほうが得策と取れた事。そして、一応同族を想って。
なんとなく、何かがありそうな気がしていた。でもビュージェエイファには言わなかった。正直な所、嫌いな相手なので、彼がどうなろうが知った事ではない。
誰も気付かないところで巨大な意志が動いているような気がしてならない。