きっかけ…V

城の中は以外と暖かい。これも魔法の研究の成果なのだろうか。国民から税と命を絞り自国と世界の発展の名目とやらで研究している割に成果は今一つ。そして真っ先に供給されるのは王族達。まさに税金泥棒。
しかし、ここでは、そんな事は言えない。
テトラミーラ城は一部の区画を除き、午前10時から午後3時までの間、一般公開を行っている。ここが暖かいことを知ってか知らずか人が多い。
(うーわ、そんなに見ないでよ・・・)
東側の壁に立つ兵士が思いっきりみている。気付いてないフリをする。
左の腰に二本、右の腰に一本、母の造った長剣・・・。左右の腿にも短剣一本ずつ、ちなみにブーツにも短剣が忍んでいる。歩く凶器。
「そんなので動けるの?」
実家に戻り、再び旅に出る時、母に言われる。
「いやー何があるかわからないからこのぐらいしないと」
と、返す。
(まさか、こんなトコでアダになるとは・・・)
額を掻き、奥の受付に近づき事務をする女性に声をかける。
「あのー・・・」
「はい」
二人居るうちの片方の女性が顔を上げる。初めて見る栗毛色の髪の女性。
「私、こうゆう者なんですけど」
首に提げた唯一の身分証明書、守護団の証を引っ張り出して、見せた。
「どのようなご用件でしょうか?」
「近衛隊隊長のエクルス・ティークと面会したいのですが」
「事前に約束をしていますか?」
「してないんですよ」
「・・・わかりました、それでは武具はこちらで預からさせて頂きます。非公式の面会、入城になりますので、ご了承ください」
「はい」
リュアは装備を全て差し出し、身体検査も受け、最後に証明書を渡された。特別入城許可証と書かれてある。
「では、この先の中央廊下を通り、謁見の間横にある詰所にどうぞ。近衛隊は午後の謁見開始まで待機しています」
「わかりました」
リュアは許可証を首に掛け、一礼して、通路を進む。

詰所の扉を申し訳なさそうに開け中を覗くと、何人かの兵士達がこちらを見る。
「隊長」
一人の兵士が書物を読んでいる兵士に声をかけた。彼は扉を示し、読書をしていた兵士はリュアに気付き、立ち上がる。
「久しぶり、ゴメンね、突然来て」
兵士、近衛隊隊長エクルス・ティークは通路に出、詰所の扉を閉める。
「元気か?」
「うん」
「旅は冬季休業に入ったってワケ?」
「そうそう(笑)」
「昼食はどうした?」
「もう食べた。昼前に戻ってきたし、早く訪ねると兄さんに迷惑かな?と思ったから」
「そうか・・・、・・・もしかして召集がかかったか?」
「二日後のヤツね」
ウインクと人差し指を立てて答えた。
「何人か数日前から町に入ってる」
「へー。でも、城の中は変化ないね」
「会議室のある四階は準備に入ってる。それと魔法研究所」
「何で?」
「新しい発見でもあったらしい。それを各国の王様方に見せ付ける為とか」
「暖房器具や発光設備以外も作れるんだ」
リュアの言葉にエクルスも笑う。
「父さんが死んで二年か・・・」
エクルスは言い、窓の外を覗く。視界には王立魔法研究所が見える。
「父さんの願いがいつまでも続くといいな・・・」
魔法の研究者であったが、軍事転用されることを拒み、人々に平和だけをもたらしてくれる事を切に願っていた。生前よく言っていた。父が死んでからは魔法研究の事はよくわからない。一般の国民はおろか、国務に従事している者にも公表しない。魔法研究所は徹底した守秘義務を貫き通している。
「もしかしたらわかるかもね、二日後。あそこで、今、何をやっているか・・・」
「だといいな・・・」





テトラミーラから遥か西、活火山であるバオセグ火山の中腹に次元の歪みがある。それは宙に浮いた黒い球形で魔力を周囲に撒いている。
この事に気付いている人間は誰一人いない。何故ならバオセグ火山の活動が活発化し始めたからである。
もうすぐ噴火する・・・。麓の町では噂が流れ、住民は我先にと避難し、もはや2割以下の住人しかいない。残ったのは役人や学者、警戒にあたる兵士のみ。そこらの者よりは知識や腕に自信のある者達だったが、いつ噴火するかわからない山に近付く勇気はなかった。むしろさっさと逃げたいと思っている。
そんな好条件があったからだ。
次元の向こう側では、何処までも続くような荒涼とした大地と、黒く見える太陽が、それぞれ天と地を支配している。
この世界―魔界のとある地点に、聳える巨塔がある。幾何学な模様を施したように見える外壁は、近付いて見ると、絶叫する人間の顔に見える。
悪趣味な塔は悪の巣窟であった。
一人の王と七人の将と無数の下級悪魔の住処であり、作戦本部でもある。作戦というのは近日開始する人間界への総攻撃の事であり、その為の下準備として、監視している。
監視とは使い魔を人間界各地に飛ばし、情報収集、目視で得た情報を魔力によるテレパシーで送受信し、人間界の動向を把握するやり方だ。
殆どの悪魔はここまでする必要は無い、一日もあれば人間界を滅ぼす事も出来ると、高を括っている。
彼等の王は、念には念を入れる、慎重な性格。尤も、過去に天界を攻め、予想外の強敵の出現によって、殺されたからだろう。慎重な性格が猶のこと慎重になった。
負の思惑が渦巻く塔の一画、特に魔力の密度が高い部屋で王を護る者達が、今後の作戦について会議をしている。
その一室に近づく悪魔。さしずめ女性司令官といったところか。彼女は扉を叩き、入室を許可する返事を受け、入室する。
上官達は彼女を見る。
「使い魔から報告が入っていますが、如何いたしましょうか?」
「言え」
リーダー格だろうか、銀髪の男が促す。
「畏まりました。二日後の件ですが、目標付近の城に世界各国の王が集うようです」
「ほう」
悪魔達はお互いの顔を見合う。
「ならば宣戦布告が楽になったな」
茶髪の男、レイスク・ブラウヴェルトが言った。
「でも、警備がキツくなるんじゃないのー?」
ナイルブルー、ビリジアンを薄くしたような色の髪の女がリーダー、アズリー・アルグレクトに言った。
アズリーは少々考え、
「いや・・・、予定通り、三部隊で行く。ミルカルト、シーリグ、ダリウツ、判ってるな?」
と、言うと、
「はいはい」
「了解」
「わかりました」
三つの返事。
ミルカルト・ハイメロート、シーリグ・ジーグラー、そして、ダリウツ・メヒアと、その部下達に何らかの使命が下されていたようだ。この三人が選ばれたのは『魔帝』就任の任期が短いというのが理由である。ミルカルトとシーリグは名の通った者であるが、対してダリウツは強大な魔力を持つことからビュージェエイファにスカウトされたが実戦、命を懸けた戦いを経験した事が無い。返事もやや弱気であり、心配そうな面持ちだ。反面、前者の二人の男女は他者の命を奪った経験が何度もあり、落ち着いている。
「もう一つ、気にかかる情報があるのですが」
女性司令官が再び口を開く。
「良くない報せか?」
アズリーに訊かれると、
「可能性が高いです」
声のトーンを落とす。
言えよ―――レイスクが言った。
「・・・天使と思われるエネルギー反応が三つ、確認されました。そのうちの一つが目標地点から南に広がる海岸線に」
再び悪魔達は見合う。
「何故天使が?」
「知らん。俺達が生き返った理由も定かじゃないんだ。エネルギー反応三つというの一つ一つが大きいのか?」
アズリーが訊いた。
「いえ、三つ、三体です」
「そのうちの一つだけが目標に近い・・・、動いているのか?」
「今現在は確認していません」
しばしの沈黙。
「拙いんじゃないのか?」
レイスクが沈黙を破った。
予定通りでいく―――アズリーは強い口調で言い、続ける。
「ただ、不測の事態に備えて別働隊を出す・・・、デハルはまだ戻らないのか?」
作戦に支障をきたす要因が発生した為か、アズリーは多少苛立ったように、まだ会議室に現れない最後の一人、デハル・ターブレイの所在をイルクシアに訊いた。彼女は誰よりもデハルの事を知っている。
デハルとイルクシアは恋人同士である。
訊かれたイルクシアは困った表情を浮かべ、目を逸らす。彼女も知らない。可能性があるとしたら・・・。
するとレイスクが、
「あいつ、まだ空飛んでんじゃね?アークエイト対策も兼ねてとか」
フォローのような事を言ってくれた。
「全く・・・、本当に飛ぶのが好きな奴だな」
溜息をつくアズリーに、イルクシアが元気良く、
「言っておきマス!」
と、手を挙げて言った。
コイツは嫌いじゃないが、性格はもう少し控えめにならんのか・・・アズリーは思う。
「しっかり言っておけ。この二日間は余計な事はするな。何が起きるかわからない。ましてや天使とやらの妨害が入れば戦闘は避けられない。下らん事で時間と体力を消費するな」
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