narrow squeak…U

この時間帯でも他国の紋章を付けた馬車が入ってくる。自警団の面々が代わる代わる検問作業を行う。
フィーラは食後のお茶を飲みながらイクスケリオンと話をしていた。
「で、そこで目覚めたの・・・」
「ふーん・・・」
朝、話せなかった夢の話をした。イクスケリオンは鼻から抜けるような相槌を終始していた。
「本当に聞いてたの?」
「聞いてたよ。でも、それがどうしたの?って感想しか思いつかないよ」
「ええー、私は旧文明に関係するものだと思うけどなー」
拗ねるフィーラ。
「でも・・・」
イクスケリオンは続ける。
「何でそんな夢が見れたのかな?絵とかで、そうゆう風景を観た事がないのに、そうゆうモノが見れるのは、何でなのかな?」
「私が日頃、色々調べて考えてるわけですよ。だから漠然としたものでも、おのずと見えてくるのです」
「流石学者様」
威張るフィーラと半ば呆れるイクスケリオン。
「でも良かった、リュアさんが同行してくれるから」
「そうだな」
カップを口に運ぶイクスケリオンを横目に、窓の外の時計塔を見る。
「あ、もう行かないと」
立ち上がるフィーラ。
「こんな時でも仕事?」
「うん。王様方が来ても、こっちは関係無いからね」
「アレだったら、夜三人で少し話しないか?旅の打ち合わせとか」
「そだね・・・リュアさんにも話してみる」
階段を降り、詰所を出る。
「フィーラ、忘れ物」
イクスケリオンの言葉で我に返る。そういえば、サンドイッチを入れていた袋を忘れていた。
「ゴメン」
振り返り、そう言った時だった。
袋を掲げるイクスケリオンの上を黒い影が通過していく。
(え?)
眼で追う。
人の形をしていて、背中に翼の生えたモノ・・・
イクスケリオンも上を見上げる。
衝撃音と共に、正門が破壊された。
「きゃ!」
しゃがみ込むフィーラにイクスケリオンは駆け寄る。
「何だ!?」
また人型の何かが空をいく。
イクスケリオンはフィーラを庇うように詰所の脇へと連れて行く。
「何あれ・・・」
「わからん」
空を飛ぶ何かは地上を攻撃する。
「今の爆発は何だ?」
他の自警団の面々が出てきた。
「あれだ」
「ありゃ何だ?」
彼等の視線の先では空飛ぶ何かが地上を攻撃している。どうやら高い建物を狙っているようだ。
「あっちは・・・」
フィーラは立ち上がって駆け出す。
「フィーラ、何処行く!?」
「お母さんが!」
「待て!」
イクスケリオンはフィーラを追いかける。
残された面々は今まで眼にした事のない事態を前に、二人を止める事も城に伝える事も考えられず、ただ街が攻撃されていく様子を呆然と見ている事しか出来なかった。

悪魔達はただテトラミーラ市を攻撃しに来たわけではなかった。
彼等の任務は二つ。
地上の攻撃拠点と思われる施設の破壊、もう一つは・・・。
ここに到達するまでに、いくつもの都市の上空を通過したわけだが、その都度部隊の者達が攻撃していた事に彼は頭を抱えていた。 別に今回の任務は早急に達成する必要は無いのだが、己の統率力の無さに痛感していた。
「あいつら・・・目的が違うだろ」
少し遅れてテトラミーラ市上空に入った悪魔、ミルカルト・ハイメロートは配下の破壊活動を見て思った。
「ミルカルト、放っておけ。先に目標地点へ」
彼の右後方を飛ぶシーリグ・ジーグラーの言葉で我に返る。
「・・・わかっている」
「ダリウツ、天使のほうは?」
シーリグは確認を取る。
「相変わらず、南東、海の方向に反応があります」
ダリウツは小型のエネルギー発生源特定機(レーダーみたいなもの)を覗き、反応を再確認する。
天使の発する魔力を捉え、一定間隔で反応する。
「他の奴等はどうでもいい、私達は任務を優先だ」
シーリグの言葉を聞き、彼女と同じ任務を任されて良かった、とミルカルトは思った。
一行はテトラミーラ城を目指す。

地上では上空からの攻撃により大混乱と化していた。
昼時ということもあり、商店街や海沿いの市場は人が集中し、猶のこと酷い状況であった。市内の兵士詰所の殆どが魔法による攻撃で壊滅していた。人間が制御できる範囲を超えた魔力のエネルギーは凄まじく、 建物一棟など簡単に瓦礫に変えていく。翼を持つ者達の何人かはそれでも満たされず、生きた生物、人間にも魔法で攻撃していた。
大通りを南下する男女、フィーラとイクスケリオンは時折空から降ってくる建物の破片を掻い潜り、走っていた。
人々は何処へ逃げたらいいのかわからない様で、四方八方から人が突っ込んでくるような感覚に囚われる。地下室に逃げこんだ者は利口である。
「こっちに来たぞ!」
誰かが叫んだ。
フィーラは顔を上げる。
少し先、大通りの真上に有翼の人間が浮いていた。黒い翼・・・
フィーラとイクスケリオンは後退りする。
翼ある者は右手に魔力を集中させ、周囲に放つ。
稲妻のような魔法に、路面の石畳は捲れ上がる。人々は巻き込まれまいと逃げていく。
稲妻は周囲の空間を駆け抜け、焼き払う。
しゃがみ、縮こまるフィーラをイクスケリオンが覆い被さるように守る。
「フィーラ、立て!このままだと殺される!」
イクスケリオンはフィーラを立たせ、急がせる。フィーラはあまりの惨状に泣いているようだ。
何とか稲妻を掻い潜り、大通りを更に進む。
「何でこんな事に・・・」
震えるような声でフィーラは言った。
「わからない!きっと魔法の力に頼りすぎた人間にバチが当たったんだろ」
イクスケリオンもわけがわからなかった。とにかく、逃げるしかない。戦っても勝てる気がしない。フィーラの腕を取り、彼女の家を目指す。
身体中から汗が吹き出し、全身が小刻みに震える。
後方から何かが追い駆けてくるような感覚が恐怖に変換され、ただ走るしかない。
走らなければ、死ぬ。
後ろを見ると先程の翼ある者が攻撃をしてきた。地を走る電撃を辛うじて直撃は免れるが、その衝撃に吹き飛ばされ、二人は分断される。
「キャアッ!」
フィーラは吹き飛ばされ、建物の壁に背中を叩きつけられた。痛みと恐怖で崩れ落ちる。
頭上で爆発音が響く。
別の翼ある者の魔法攻撃を受けた時計塔・・・それが折れて、落ち始めた。
「逃げろッ!!」
イクスケリオンの声が聞こえたような気がした。意識と視線は落ちてくる時計塔に集中し、それ以外の外部からの情報がうまく伝わってこない。
死を目前にすると時間の経過が遅くなる、フィーラがこの事を知っているかどうかは分からないが、正にそれが起きていた。
動けなかった。
「クソッ!!」
イクスケリオンは必死で走り、何とか彼女をその場から救い出そうとする。
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