narrow squeak…V

王城でも町の異常事態が伝わり、臨戦態勢を取っていた。ただ、相手が相手ということもあり混乱していた。
昼食時をついて攻撃を仕掛けるとは卑怯すぎる。
王は兵士を城の外へと展開させていたが、まさか空から攻撃してくるとは思っていなかったようだ。凄まじい魔法の攻撃により防衛線は後退していく。
リュアは正面玄関へと走っていた。
外から轟音、それに続いて地響きが起きる。
―――何が攻めてきたの?
正面玄関から外に出ると想像を超えた光景が広がっていた。翼を持った人の姿をした生物が魔法により攻撃を仕掛けてきている。立て続けに繰り出される魔法に兵士達はなす術もない。 城のテラスからエルミーア達魔法部隊が魔法による応戦をしていたが魔法攻撃の間隔が安定しておらず、殆ど気休め程度であった。決定的な差が二つでていた。相手は魔法に長けた生物のようで威力が違い、発射間隔が短い。所詮人間は詠唱が無いと高度は魔法を繰り出す事が出来ないからだ。
火炎魔法の熱風が噴きかかる。熱に肉体が反応し汗が吹き出る。
城に攻撃が及ぶのは時間の問題だった。
ダレスも走ってきた。
「一体何が攻めてきたんだ!?」
「知らないわよ!」
「王様方はどうした?」
「城の中。のんびり昼休みしているんじゃないの?」
―――轟音。
「何?」
振り返ると、城の裏から煙が上がっている。どうやら攻撃を受けたようだ。
「おい、裏って誰か配備されてたよな?」
リュアとダレスは顔を見合す。
リュアは駆け出した。
「居ないのかよ!」
言い、ダレスはリュアを追い駆ける。

悪魔達にとって理想通りの戦況になっていた。まず、先制攻撃により地上からの攻撃拠点を潰し、遠距離攻撃を封じた。 そして王城を攻撃し、狙いを王達と思わせるようにした。
ミルカルト達は目標地点である魔法研究所に安全に降下出来た。
「どうやら警備の目を逸らせたようだな」
部下達が無差別の攻撃をした事が吉とでた。
「いくぞ」
ミルカルトの言葉にシーリグは頷く。
「待ってください」
ダリウツは言った。
「どうした?何か問題でも?」
ミルカルトはダリウツを見る。
「天使の反応が強くなりました。位置は先程と変わってませんが・・・」
「・・・急ごう」
シーリグの言葉に二人は頷く。
魔法研究所の扉は魔法攻撃ですんなり吹き飛んだ。一歩踏み込み、中の様子を確認する。
「問題ない」
三人の悪魔は対象物を求め、かつ慎重に進む。
所内は現実世界で謂う所の製鉄所のような風景である。書き手が巧く表現出来ない(ホントすいません)のが原因なのだが、そんな風景を想像して貰って構わない。魔力精製炉、金属で加工された大きな机には呪文の書かれた書物、攻撃魔法用の実験体を閉じ込める為に用意されたかのような檻・・・。
「こんな所に本当にあるのか?」
シーリグが言った。
「使い魔の情報を信じよう」
ミルカルトが答えた。

角を生やしたでかい蝙蝠(こうもり)のような生物。
リュアとダレスは目の前の対象を一目見て思った。
壁を壊した生物は二人を見ると、迷わず攻撃してきた。鋭い爪を振り翳す。
二人は後ろに飛び退き、かわす。風圧が顔を撫でる。
「こりゃ、言葉が通じそうもねえな」
「みたいね」
剣を抜き、臨戦態勢をとる。
「俺が裏に回りこむ!」
「任せたわよ!」
大振りの攻撃の隙を突いて後ろに回りこみ、前と後ろから攻撃すれば有利になれる。
まず、リュアが気を引かせる為に一人向かっていく。
化け物は雄叫びを上げ、爪による攻撃をしてくる。長い腕はリュアの剣の射程より長く、剣先を届かせるには攻撃を掻い潜らなければ不可能。しかし、予想していただけに簡単に攻撃を回避し、攻撃を繰り出した右腕に一太刀入れる事が出来た。
痛みに喚く化け物。左手を傷口に当てる。
「痛覚はあるようだな」
ダレスは化け物の左腕を踏み切り、頭上を飛び越える。
―――勝てる。
リュアとダレスは思った。
背後に回り込んだダレスは隙だらけの背中に剣を振るう。だが同時に、先程リュアの攻撃を受けた右手が飛んでくる。
ヤバイ!
身体を床に張り付かせるかのような動作でそれを交わす。化け物の拳が石の壁にめり込む。
「ダレス!」
リュアが叫ぶ。再び気を引かせる為に化け物に攻撃を仕掛ける。
視線を向ける攻撃対象。
このわずかな時間だけでもダレスの体勢を立て直させるには十分、と思った矢先―――蝙蝠は口を開け、火の玉を吐き出してきた。
リュアの全身から汗が噴きだす。
間一髪で軌道から身体を外し、かわす。
「熱っ!」
防寒用の加工が施された服が熱波によって焦げる。
「大丈夫かっ!?」
「なんとか・・・!」
ダレスに一応無事を伝えた。
上階からの衝撃に、城が揺れる。
(腹を括ったほうがいいかもな・・・)
ダレスは思った。
とんでもない生物達が大挙して攻め、このままじゃ勝ち目が全くないと悟った。目の前の一体を倒したとしても、他に何体いるのか・・・。

ミルカルトは今回の作戦で20体の悪魔を引き連れてきた。
自分達のような人型と召還された魔物型。
人型までも言う事を聞かないとは思っていなかった。
魔法研究所の中は誰もいない。物が散乱している様から、この異常事態に慌てて人間達が避難したからだろう。
一階最も奥に位置すると思われる空間の入り口を開けると、空気が変わる。
空気が凍ったような感覚。
「ここだ」
他の部屋を見て回るシーリグとダリウツを呼ぶ。

初めてあの魔法を目の当りにした時、空気が凍ったような感覚を受けた。

ビュージェエイファは過去天界に侵攻をした時の事をまるで昨日の事のように自分達七人の直属の部下に語ったのだった。
天使達の住む神殿まであと僅か。部下も倒れ、独りきりになった彼の前に予想外の強敵が立ち塞がった。
大天使を凌駕する魔力と、あのアークエイトのように翼を使わずに魔力のみで驚異的な推進力と機動を生み空を飛ぶ・・・。
羽無しで飛べる者は後にも先にもアークエイトだけだと思っていた。尤も、彼女には翼など無い。
その強敵、天使は自分には無い魔法を使い、最終的に殺された。
こんな奴がいるとは想定外。
名前はレシュラント。数居た天使の中で彼の名前だけは死し蘇っても覚えている、とビュージェエイファは言った。
彼と同等の力を・・・そしてこの世の頂点に・・・
故にこの都市を攻めた。柔(やわ)な人間達が完成間近まで漕ぎ着けた『魔法』を手中にするべく。
悪魔や天使のような霊力、魔力に長けた生命体にしか扱えない・・・結局未完成のままのそれはガラス製の筒状の容器の中で資格ある者の到来を待っていた。
青白い光を放ちながら。
ミルカルトは近付き、手を伸ばす。
彼等悪魔に応えるかのように光が強まる・・・・・・ような気がした。
「これだ」
容器に手をかけ、少し躊躇する。そして素早く引き上げた。
「いくぞ、任務はここまでだ」

城門の防衛線は決壊し悪魔達が城に侵入してくる。
テラスの魔法部隊も城内に戻り戦っている。だが魔力を消耗している為、辛い戦況だ。
ミルアーナも魔力が底をつきかけていた。それでも死力を尽くし、化け物共を自分より後ろにはいかせないと戦っていた。
頬を涙が流れる。
数分前、仲間であり友人である魔法使いを亡くした。
攻撃の合間を衝かれ、腹部を貫かれ・・・
次は自分かもしれない・・・
もう一人の魔法使いの仲間、ルペレンスも思った。彼はミルアーナの補助をし、攻撃に専念させるよう防御魔法を展開していった。
城の通路を凄まじい魔力のエネルギーが駆け抜け、空間が熱され、歪んでいる。
悪魔達の魔法が防御魔法によって跳ね返り、壁を大きく削る。城が崩れる気配も刻一刻と迫ってくる。
魔力の大幅な消費によって精神肉体共に疲弊しきっていたがミルアーナの集中力は全く途切れなかった。ハイな状態が続いていたが、それだけで戦況がひっくり返せるまでにはいかなかった。
「もうダメ!コレ以上は!」
ミルアーナはロッドを構え、打撃で応戦する姿勢をとる。
ここからはルペレンスの魔法で凌ぐしかない。それも何時まで持つか・・・。
絶望的な戦況故に異変に気付くのに時間がかかる。
三体居る化け物は馬鹿みたいに直立している。
「?」
ミルアーナとルペレンスは新手の作戦かと身構える。
ところが、予想を反して化け物共は自分達が壊した城壁から飛び出し、飛んでいった。
「?」
「どうしたのカシラ?」
よく見ると、空に似た影がいくつも揚がっていく。
「空から攻撃する気か!?」
ルペレンスが叫ぶ。
「いえ、あれヲ」
ミルアーナが指を差した方角へ黒い塊が飛んでいく。
「何トカ、危機は去ったみたいデスネ」
ミルアーナは言い、溜息を一つする。
「王達の安否を確認にいきマショ」
フラフラな足取り・・・
ルペレンスはミルアーナの歩く後姿を見て回復魔法をかける。
「アリガト」

リュアとダレスも突然の事態の変化に少々戸惑いながら、壊れた壁から城の外へ出た。
街のあちこちから煙が上がっている。だが、破壊の元凶の姿が見当たらない。
「みんな帰ったのか?」
「弱い者虐めに飽きたんじゃないの?」
リュアが皮肉を一つ。
二人は暫く外の様子を見ていたが、リュアの一声で中に戻る事にした。
王達と城内に居る者達の安否を確認しなくては。
「おい、変な声出すな」
「え?」
リュアは話掛けられたような気がしてダレスを見る。
低い男の声が頭の中に響く。
笑い声。
リュアはダレスを無言で指差す。
―――あなた?
ダレスは無言で首を振る。
―――俺じゃない
それでも声が聴こえる。
「はははははははッ!昼飯時に邪魔をしたようだな」
―――どなた?
二人は顔を見合わせた。
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