Pass T
Then even nothingness was not.not existence.
There was no air then.not the heavens beyond it.
What coverd it?Where was it? In whose keeping?
Was there cosmic water.in depths unfathomed?
・・・東への旅は不思議と楽しく思える。
好きな人は傍にいる。足場が悪いと手を差し伸べてくれる。
先導する案内人は時折指をさし、見える景色を説明してくれる。
あと五日後にはこの景色と共に自分の命も消えるのかな・・・
先程、テトラミーラ国内での最後の記録を書いた。
手は問題無く動く、しっかり字が書ける。しかし、足はかなり疲労している。
恐らく、人生で最も足を酷使している時期だろう。
イクスケリオンも同じ、彼は顔には出さないようにしているようだ。
先行くリュアは昨日と変わらないペース。東の地に、フィーラの話に期待しているという事だろうか・・・
彼女の背を見ていると思う事が多々ある。
旅路の案内人を受けてくれた事、送り出した家族、一人旅を始めた動機、剣を持つきっかけ、亡くなった父親・・・
違う生き方をしている、という理由もあるが、父親を亡くした事は同じ。
もしかしたら・・・
リュアも自分と同じ願望を持っているのではないか・・・?
彼女は自分の話を聞いて案内役を引き受けてくれたが、それは今回の事態、悪魔達の布告故である。
もし悪魔達が現れなければ・・・
予定通り週末にイクスケリオンと出発して、二人でのんびり観光気分で東に行くはずであった。それでも冬直前の酔狂な旅である。
そこまでして急ぐ理由
「遥か東に、魔力に満ちた土地があり、ある民族がその土地で生活している。彼等は唯一旧文明崩壊の真相を知っている」
そこに旧文明に関する何かがある。魔法に関する事象・・・?
考察を重ねる上で、ある願望が次第に強くなっていた。
早くその地に行きたい・・・そこに行き・・・
そこに行き・・・
リュアが振り返り、手招きをする。二人が追い付くと、
「ほら、国境。右側に見えるのがクリストルで、左側がテトラミーラの国境警備隊の基地」
ここは国境、国と国が接する土地。戦争が起きれば真っ先に戦火に包まれる土地。
曾祖父の頃、テトラミーラとクリストルは戦争をしてたらしいが、今は和解し同盟を結んでいる。
戦争が起きることは無いだろうが、万が一・・の理由と、国境をはっきりさせる意味で軍を配備している、と、リュアは説明した。
「それじゃ、行きましょう」
言い、リュアは歩き出す。二人も続く。
基地に近づくと、一人の兵士が気付き、声をかけてくる。
「出国希望者か?」
「はい、お勤め御苦労様です」
リュアが答えた。
「ああ、あんたか」
兵士はリュアの顔を見て笑う。
「東へ?」
「ええ、先日の件で二人の護衛を」
「そうか・・・、そっちの二人、署名を」
三人は基地の中に入る。いくつか机が置かれ、奥の壁にベットがあり、一人寝てる。彼も兵士だ。頭を抑えている。
フィーラが署名をしていると、
「彼、具合悪いの?」
と、リュアが招き入れた兵士に訊いた。
「一時間ほど前に、ウチの国の馬鹿共が押し掛けてきたんだ」
「馬鹿共?」
「大勢の避難民さ。悪魔のおかげで気が狂った様に、『早く通しやがれ』と叫びながら、国境を越えようとした。
それで手続きをしない奴等を止めようとして頭を殴られた」
「・・・・・・」
イクスケリオンは黙って聞いてた。
「大丈夫なの?」
リュアが訊いた。
「本人が『軽い脳震盪だ、大丈夫だ』って言ったからな」
「そう・・・」
「まあ・・・わからなくはないわな。前代未聞の事態で恐怖に駆られるのは・・・」
兵士は言った。
「・・・・・・」
「はい、イクス」
イクスケリオンは我に返り、筆を受け取る。
出国の為の署名を終え、三人は基地を出る。
リュアは守護団の証の掲示で済んだ。よくここを通っているようだ。
「道中、気を付けて・・・幸運を」
「貴方達も・・・」
兵士の送る言葉にリュアも答える。そして、敬礼をした。
思わず、兵士も敬礼をする。
残る者と行く者・・・
もしかしたら永遠の訣別になるかもしれない・・・
国の為に残る者への敬意を表す。
二人の姿を見たフィーラとイクスケリオンは兵士に深く礼をする。
テトラミーラからクリストルへ。
兵士は守護団の召集がでている事を知っていた筈だ。それでも何も言わず、咎めもせず、国境を越えさせてくれた。
彼は何か思うところがあったのだろうか・・・?
「あんたは駄目だ」
止められたらどうなっていたたどうか・・・
それでも二人は自分抜きで東に行くだろう。そうあってもらいたい。
此処まで来て、先導者が落伍(らくご)者に変わったから、「じゃあ、やめます」なんて言ってもらいたくない。
乾いた枯草の地面、葉の落ちた林を横切る。
自然の中を進んでゆく。
次第に雑音が聴こえてきた。自然が発する音ではない。
人の声
・・・どうやら大勢の人間が居るようだ。
クリストルの国境哨戒(しょうかい)基地が見えてくると、たくさんの人がそこに群がっていた。
三人の頭に先程の兵士の話が蘇る。
基地の前まで来ると状況が理解できた。
テトラミーラ側の避難民がクリストルに入る金網(フェンス)に向かって怒鳴っている。
どうやら隣国は警備が厳重のようである。
イクスケリオンは最後尾から前の様子を窺うため飛び上がる。
「何か見えた?」
リュアが訊くと、
「武装してる、魔道士みたいな連中も何人か居る」
「思ったよりも早い対応ね・・・」
「え?」
フィーラはリュアの顔を見る。
「多分・・・西からの移民、避難民の規制を始めたのよ。これから西の諸国から脱出しようとする人がどんどん増えてくる・・・。
多くの人間を一気に入れたら対応出来なくなると予想しての判断よ」
「こんな事が、世界中で・・・?」
「このくらいならまだ良いほう・・・、最悪、暴徒と化して、テトラミーラの検問の人よりも酷い目に遭う人がでるかもね・・・」
(・・・・・・)
フィーラの表情が曇る。
リュアにはその意味が解らなかった。
とにかく現状が改善される事はないだろう・・・。リュアは思う。
だが、旅をやめさせる気もないし、こんな所で足止めされるつもりもない。
前に進むしかない
時間がない
「行きましょ!」
突如、リュアはフィーラとイクスケリオンに、手でついて来いと合図する。
二人は訳も分からず後を追う。
リュアは人だかりを掻き分け金網へ突き進む。
「痛っ!押すな!」
「割り込むな!!」
「何だお前は!?」
そんな声に、
「すいませーん、通してくださーい」と、笑顔で答えるリュア。
不味い事になってきた・・・
フィーラとイクスケリオンは冷や汗、鳥肌、心拍数が上がる。
とうとうリュアは金網の前にまで達した。
「すいませーん!」
他の人間に負けんと、大きな声で、金網の向こうの他国の人間に呼び掛ける。
その後ろでフィーラとイクスケリオンは手を繋ぐ。
恐らくリュアは何か考えがあってこんな無茶な事をしたのだ。ここは彼女に託そう・・・
「すいませーーん!!」
リュアの、女の声に反応したのか、一人の兵士がこちらを見た。
「私!!こうゆう者なんですけど!!」
首にかけた守護団の証を引っ張りだしてチラつかせる。
その兵士はそれに気付き、近付いてきた。
(やった・・・!)
リュアの顔に笑みが浮かぶ。
(あとは、これを・・・!)
「おい、誰か来てくれ!」
「どうした!?」と他の兵士が来る。
「国際機関の人間がいる、中に。他の者は援護!」
隊長級の兵士だったのか、彼は仲間に指示を出した。
金網が少し開く。
「一人か!?」
「あと二人!」
「早く中へ!」
他の人間の不満が一気に噴き出す。
それでもリュアは落ち着き、
「さ、行きましょ」と、フィーラとイクスケリオンを引き入れた。
閉じる金網
イクスケリオンは振り返り、金網の向こうを見る。
大勢の人間が放つ罵声、怒声は一つの空気の塊となり彼にぶつかる。
爆音のようだ。
発する者達の顔も怒りと僻みが溢れ出し、まるで・・・悪魔のようだ・・・
悪魔が攻めてきた時の事を思い出し、余計怖くなる。慌ててリュアとフィーラを追う。
警備隊の隊長らしき兵士とやりとりするリュア。
「守護団の人間か・・・」
「はい」
「テトラミーラ国出身の者はそちらの首都に召集されているはずでは?」
「特命で、この二人の護衛を」
兵士はフィーラとイクスケリオンを見る。
どう見ても只の一般人だ・・・
兵士の眉間に皺が浮かぶ。
彼は困った。
自国の政府から入国者を規制するよう通達された。政府要人、王の使いといった人物、病人等の急用の者しか通せない。
解除される見通しはない。
だが、守護団の女の瞳を見て、並々ならぬものを感じた。
この人間の為に何かをしてやりたい。
リュアは兵士の目を見つめ続けた。こうすればこちらの真意を悟ってくれると・・・
通して下さい、お願いします
兵士が目を逸らす。
「ちょっと、ここを見てくださいよ」
リュアは証を兵士の顔に近付け、一点を指さす。
「?」
「こーこ!よく見てください」
指された所、小さい文字を読むが、意味が解らない。
「よく見てくださいよ!!」
一際強いリュアの口調。
兵士は女の顔を見ようと、目線を変えた時、女の必死の訴えに気付いた。
(・・・何としても、ここを通りたいのか)
小さく笑うと、リュアも返す。
気付いてくれた
リュアは袖に金を入れチラつかせていた。
「・・・政府の要人だった。この者達を通す」
その言葉に他の兵士達はお互いの顔を見る。この隙に、リュアは金を兵士に渡す。
フィーラとイクスケリオンは見逃さなかった。
「おい!だったら俺達も通すように説得してくれ!」
「病人がいるんだ!」
金網の向こうから声があがる。
「行くんだ」
賄賂を受け取った兵士はリュアに言った。
「感謝します」
リュアは他人の声も気にせず、フィーラとイクスケリオンに、
「さ、行きましょ」と、
笑顔で言った。
三人は後ろも見ずに、先へと歩き始めた。
後ろではまた怒声と罵声が上がる。
「何で規制なんか敷いてんだ!?」
「悪魔!人でなし!」
「あの女、何か渡しただろ!?」
本当にこれでよかったのか・・・?
賄賂を受け取った兵士は自問する。他の兵士達も彼の判断を疑っている。幸い、彼等に賄賂を受け取ったところは見えなかったようだ。
国境を越えたフィーラとイクスケリオンも後味の悪い気持ちだった。
自分達だけ通された事、リュアが他の人達に目もくれなかった事、金で解決させた事・・・
リュアは何事もなかったかの様に先導する。