Pass U
二日目の旅程も終わり、とある町の宿に入った三人。部屋には3つベットが備えており、幸い一部屋で済んだ。
フィーラとイクスケリオンは足が限界だった。部屋に入り、荷物を下ろし、まずは椅子に座った。
―――きつすぎる
二人は正直、嫌になってきた。
東に何があるのか?本当に助かる見込みはあるのか?
何もかも諦めたら楽だろう。
身体は疲労しても脳は負の思考を生み出すが、反面して、送り出してくれた家族、出会った人達、天使の顔が頭に浮かぶと、彼等の期待、願いに答えなくてはと逸らせられる。
フィーラとイクスケリオンは互いに口に出すことは無く、耐えていた。
その晩は少し違った。
精神的な疲れ、何よりも哨戒基地でのやりとりが強く印象に残っていた。
思わず、フィーラは立ち上がり、リュアに言う。
「国境の時は・・・ありがとうございました」
頼りっぱなしだ。申し訳なく思う。
「いいです、いいです、気にしないで」
リュアは答えた。
「でも、他の人達も入国させる事が出来たんじゃないですか?」
どうしても心に引っ掛かったままの罪悪感が言葉となった。
リュアは真顔になり、フィーラの眼を見る。その無感情ともとれる視線にフィーラは身構える。
すると、リュアは小さく笑い、言う。
「何か、勘違いしてません?」
「え?」
「私は、世界を救いたいとか、人類を救いたいとか、英雄になりたいとかってワケじゃないんですよ。
ただ、貴女の為に道標をしたい、あわよくば貴方や家族を助けたいから、なんですよ」
「でも・・・」
「フィーラさんと私では正義感と責任感の違いがあるって事ですよ。天使と悪魔に例えれば、
誰も彼も救いたい天使の様なフィーラさんと、自分達さえ助かれば他人はどうでもいい悪魔の様な私って事です。
あの人達に未練があるのならば、貴女があの時、言うべきだったんじゃないですか?」
「・・・・・・」
黙るフィーラ。
確かにリュアの方が現実味のある人の考え方である。
フィーラが次の言葉を発する前にと、イクスケリオンが二人の間に入る。
「すいません、こいつ、疲れてて誰かに当たりたいだけなんで・・・」
イクスケリオンの弁明にリュアは小さく笑い、首を振り、言う。
「気にしてませんから。私は誰に何と言われようと東の地に行きますから、期限までに」
「は、はい・・・」
イクスケリオンは少し安心した。
俯くフィーラにイクスケリオンはやや強い口調で言う。
「お前、もう寝ろ、疲れてんだよ。荷物の整理は俺がやっておくからベットに入れ。日記は明日の朝に書け。一晩眠って頭を冷やした後にな」
イクスケリオンが言い終わらぬうちに、フィーラはよろよろとベットに入っていった。
チッ
イクスケリオンが小さく舌打ちをした。
落ち着いたイクスケリオンとリュアは途中で買った蒸留酒の瓶を開けていた。
疲れと渇きの為か、アルコールのまわりが早い。グラス半分ぐらい飲むと、体が温まり、血管が膨張し、血流が増す。
どくん、どくん、と、心臓の鼓動が体の中で響き渡る。
「もう酔った?」
「みたい」
イクスケリオンは簡単に返すとリュアが笑う。
「あ!たしか・・・」
リュアは立ち上がり、荷物の中から煙草を持ってきた。
「これ、よかったらどうぞ。私吸わないんだけど、母が何故か持たせてくれたので」
「じゃあ・・・一本、いただきます」
マッチで火を付け、煙を吸い込み、吐き出す。
「あ〜〜〜、きく・・・」
イクスケリオンは眼を閉じ、アルコールとニコチンが脳に浸透する感覚に浸る。
暫くすると、急にイクスケリオンは小さく笑う。
「どうしたの?」
と、つられる様に笑うリュアは訊いた。
「15の時、煙草吸ってる男って格好良いとかいう話聞いちゃって、隠れて煙草吸ってたら親父に見つかって、こっぴどく怒られたなあ、なんて・・・」
「へー、イクスケリオンさんもそんな過去あるんだ」
「あなたは、何を?」
「・・・言えない、って言ったら怒ります?(笑)」
「いや、別に・・・」
「まあ、私も色々しましたね・・・」
遠い目をするリュアの向こうに彼女の剣がある。
(そういう事か・・・)
煙を吐き出し、灰を灰皿に落とす。煙草を口元まで運び、ベットの方を観る。
「みんな、何かに憧れるんだよな・・・」
「え?」
「あいつ」
「フィーラさん?」
「二年前だったっけ?クーデターの時、あなたに助けて貰って。その時の事を俺によく話してた。
雨の中、二つの剣がぶつかり合う様、倒れたあなたを助けようとした時の事とか・・・」
(・・・・・・)
「あいつにとって、あなたは一つ上の存在、目指すべき存在、なんですよ。強い女性、理想の女性というか・・・。
だから、国境での出来事は衝撃だったんだと思います」
「ふ〜ん・・・」
リュアにとって、どうでもいい事だ。誰かに影響を与えるとか、期待されたいとか、そんな事を考えて案内人を志願したわけじゃない。
これからも、だ。
逆にリュアは問いかける。
「じゃあ・・・どうするべきだったのかな・・・?あの人達も入国できるように働きかけるべきだったかな?」
「それが『最善』だった、と、俺は思います。でも、もし俺があなたの立場だったら同じ事を考えたと思います」
イクスケリオンはグラスを一気に空にする。もうこれ以上は飲めない。酌をしようとするリュアに「もう・・・」と告げる。煙草ももういい。
火を消し、灰皿に落とす。リュアは自分のグラスに酒を注ぐ。この女はまだ飲むのか・・・
「ねえ・・・」
「はい?」
「もし、東に行って、何もなかったら?」
リュアの唐突の質問に困惑する。
「それは・・・考えないようにしてます。フィーラの話はともかく、天使の話した事に期待するしか・・・」
アルコールで思考が麻痺し、何かを考えるのが嫌になる。眠気も襲ってきた。
「俺、もう寝ます」
「そう・・・おやすみなさい」